壊されていく古い建物には“魔”が宿っている(撮影:1993年3月)

 この路地裏に佇む建物を見て何を感じるだろうか。「ずいぶん古い汚い壁だなぁー」「それはそうだが、ただならぬオーラを発散しているなぁー」と、ここに足ったときのボクの印象である。
 ここは香港、何度も訪れた街であるが行く度に姿が変わっていく写真は1993年に撮ったものだ。香港返還の4年前になる。
 まだ、あの九龍城もあった、どの国の主権も及ばない無法地帯であり、巨大なスラム街が広がっており「東洋の魔窟」と呼ばれていた。現地の人から「観光客なんかが、行くところじゃない。魔窟に入ったら出てこれなくなるぞ」と、脅かされた。
 そう言われると“怖いもの見たさ”で行きたくなるのが人情というもの。言われるとおり、その迫力はさすがなもので、外周を眺めるだけで、内部に入るのはためらわれた。また、返還前に再開発することになり解体工事が始まっており、関係者以外近寄れない状況でもあった。そのおかげで「魔窟で消息不明」にならずにすんだのかもしれない。
 そうした視点で街を見ると、いたるところで再開発が進行しており、古い建物がどんどん壊されていく途上にあった。「ここはひとつ、古い街並みを記録しておこう」と思い立ち、あちこちの路地をうろつき、撮りまくったうちの一枚がこの写真というわけだ。ボクとしては気に入っている一枚なのだが、どうだろう。

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