天空から舞い降りてきたタクツァン僧院(撮影:1990年5月)

 ブータン随一の聖地といえばタクツァン僧院だ。ブータンの宗教はチベット仏教で、昔々ハドマ・サンババという高名な僧が、虎に乗ってこの奥深い山中の絶壁に飛揚してきたことによる。
 普段はいいかげんな仏教徒のボクであるが、なぜかこの時は敬虔な志を抱き、御利益に預かろうと、ガイドに道案内を頼み出かけることにしたのだった。
 ブータン第二の都市パロから往復一日の行程だ。登山口というか参道口から山中に入ると、細くて険しい道が続く、いつの間にかボクたちの後ろに馬の手綱を引いた御者がついてくるではないか。
 「これくらいの山道なら自力で登れますから」と伝えたが、ガイドは「いずれ乗ることになりますよ」と笑うのであった。一時間ほどしか歩いていないのに疲れがひどい。高度3000メートル近くあるので空気が薄いせいなのか。結局、馬の世話になることなった。
 馬にまたがると視界が広がり気持ちがいい。だが、急峻な崖道を通過するとき、「馬が足を滑らせたら、もろとも谷底に落ちておだぶつだなぁー」というところもあった。
 3時間ほどで展望台に着き、遠方にタクツァン僧院が一望できる。天空から舞い降りてこなければ、こんな風にはならないであろう姿をしている。写真は昔の僧院の姿である(1998年に火災で全焼、その後再建された)。
 展望台から僧院までは急すぎて馬が使えないというので、ボクはガクガクの膝をなだめながら必死でたどり着いた。ここで、ガイドと少し揉めた。事前に許可を申請していなかったので、建物内には入れないというのだ。「なぜ早くそれを言ってくれなかったのか」「ほとんどの観光客は展望台までで、それより先に行く人はいない」押し問答になったが、外観を眺めるだけであきらめるしかない。
 こうしたトラブルはあったが、ブータンの伝統建築であるタクツァン僧院を間近で見ることができたのは素直にうれしかった。

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