一瞬の出会いでも、見透かされてしまうことがある(撮影:1996年5月)
早朝のメコン河で幼い少女とすれ違った。ここは大河メコンの河口、デルタ地帯の町、ドンタップ省・ビンロンである。三角州の入り組んだ水路を生活物資を運ぶ舟が朝早くから行き交い、活気に満ちている。
ボクがどんないきさつで、ほんの一瞬だけ、このかわいい女の子と出会うことになったのかは覚えていない。おそらく、陸路より便利な水路を使って移動しただけなのかもしれない。
女の子はいつもの朝と同じように行き交う舟を眺め、今日は「知らないおじさんが、カメラなんか持って何してるの」とでも言いたそうだ。
写真をよく見ると、この舟は運搬船でもあり、家でもある。瓶には飲料水、お腹がすいたらバナナ、観葉植物まで備わっているではないか。少女の純真な瞳は、あくせくした東京から逃げるようにしてやって来たボクの愚かぶりを、見透かしているに違いない。
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