牛が完成するまで、ズーと見ていたかった(撮影:1998年4月)

 石の中から牛が飛び出てきた。彫刻家が根気よくコチコチとノミを振るい牛を産みだしている。ボクは昔からこうした仕事をする人に敬意を抱いてきた。
 完成させるには、とんでもない気力とエネルギーがいるだろう。とても自分にはムリだ。それと、塊(かたまり)から削り出すわけだから、頭の中にイメージが完成していなければならない。さらに、ノミを打つときに失敗は許されない。元に戻すわけにはいかないからだ。
 そうしたプレッシャーに弱い人は彫刻家にはなれないと思う。最後の一振りが失敗して、石がポロリと欠けてしまったら、それまでの努力がパーだ。
 写真はインドネシア・スラウエシ島で出会った制作現場である。彼は「いいよ」といってくれたのでしばらく見学させてもらった。ズーと見ていたかったが、迷惑になってはと気をつかった。
 それに、牛の目が「何そんなに見てんだよ」といっているではないか。帰りぎわ、お礼にタバコを一箱わたしたら彼はにっこりと笑って受け取ってくれた。

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