「みんなが首を長くして待ってる。早く届けるほど高く買ってもらえるからね」(撮影:1997年4月)
この険しい山道をボクも息を切らしながら歩いた。ここは中国・雲南省・貢山トールン族ヌー族自治県の山岳地帯である。ミヤンマーとの国境と接する独竜江郷を訪れ、少数民族トールン(独竜)族の人たちの暮らしと住まいを知る旅だった。
独竜江は半年近く雪に閉ざされる辺境の地で、たった一本しかないこの道は雪が溶ける5月にならないと往来できない。それも片道三日間歩き続けなければならない。
独竜江郷へ生活物資を運ぶのは人力と馬しかない。写真手前の青年はタバコ、酒など嗜好品を担いでいる。「郷ではみんな首を長くして待ってる。早く届けるほど高く買ってもらえるからね」と、屈託のない笑顔で話してくれた。
ボクも急ぎたいと気持ちがはやった。だが、そうはいかなかった。難所の峠にさしかかると、季節はずれの雪が降り出し、前に進めなくなってしまった。近くの山小屋で三日間避難したが、雪は止まず積もるばかり。無念ではあったが、ここで引き返すことにした。目的を果たせなかっただけに帰路の足取りは重く、心底疲れた。
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